リモートセンシング工学分野(レーダー大気圏科学分野/山本研究室)

電波を用いた大気計測技術を開発し、大気中の諸現象を解明を目指す

リモートセンシング工学分野では、電波による大気の遠隔計測技術の開発を通して、地球大気中の諸現象の解明を目指しています。キーワードは”大気”と”レーダー”です。当研究室の特徴は以下の通りです。

  • 波長数m(VHF帯)から波長数mm(ミリ波帯)までの様々な特徴を持つ電波を用いることにより、大気中の諸現象(乱流・電子・雨・雲など)を計測するためのレーダー技術の開発を行っています。
  • 人間の生活に直結する地表付近から高度100km以上に存在する地球大気と宇宙の境界(電離圏)に至る、広い高度範囲の大気現象を対象とした研究を行っています。
  • 日本付近の大気現象のみならず、国際協力による熱帯域の大気現象の解明に取り組んでいます。インドネシア・スマトラ島に設置した大型レーダー(赤道大気 レーダー)のほか、他研究機関と共同でインドネシアに設置した小型レーダー観測網を用いて、地球上でもっとも深い積雲対流活動が発生するインドネシアの大気現象の解明を目指しています。

教員

山本 衛 ( Mamoru YAMAMOTO )

山本 衛教授(生存圏研究所)

研究テーマ

  • 電離圏イレギュラリティの研究
  • 干渉計法による大気乱流層の研究
  • 大気観測用レーダーシステムの研究

連絡先

宇治キャンパス生存圏研究所S-452H号室
TEL: 0774-38-3814
FAX: 0774-31-8463
E-mail: yamamoto (at) rish.kyoto-u.ac.jp

横山 竜宏 ( Tatsuhiro YOKOYAMA )

准教授(生存圏研究所)横山竜宏

研究テーマ

  • 東南アジア域における電離圏観測
  • 電離圏擾乱現象の数値シミュレーション
  • 中性大気-電離圏上下結合

連絡先

宇治キャンパス生存圏研究所S-449H号室
TEL: 0774-38-3810
FAX: 0774-31-8463
E-mail: yokoyama (at) rish.kyoto-u.ac.jp

研究テーマ・開発紹介

大型レーダーによる大気・宇宙空間計測

MUレーダー(写真)は滋賀県甲賀市信楽町に設置された、アジア域最大のVHF帯レーダーです。台風・前線など我々に身近な現象が発生する対流圏(高度十数km以下)の風速や乱流の計測を高精度で実施できるほか、高度100km以上に存在する地球大気と宇宙の境界(電離圏)での電子の様相を観測することが可能です。また、直径103mの円内に配置された475本のアンテナを独立に制御可能なほか、複数の周波数をほぼ同時に送信することができる高度なハードウェア・ソフトウェアを備えた世界唯一のレーダーです。

MUレーダーは、2015年に電気電子情報通信分野におけるIEEEマイルストーンに認定されました。IEEEマイルストーンは、IEEEの分野において達成された画期的なイノベーションの中で、開発から少なくとも25年以上経過し、地域社会や産業の発展に多大な貢献をしたと認定される歴史的業績を表彰する制度として1983年に創設されました。これまでに100件以上が認定されており、日本からは指向性短波(八木・宇田)アンテナ、富士山レーダー、東海道新幹線などが認定されています。

当研究室では、MUレーダーの高い能力を活用することにより、大気の計測技術を開発し、さらに開発した計測技術を生かして大気現象の解明に取り組んでいます。多くの研究は、日本・諸外国の研究者と共同で取り組んでおり、海外の研究者が頻繁に研究室に滞在しています。MUレーダーのある信楽MU観測所は、京都大学の設備のほか、他の大学や研究機関が設置した様々な観測機器による観測も行われています。また、充実した宿泊施設とインターネット設備を備えています。当研究室のスタッフや学生は他大学・他機関の研究者や学生と共に信楽MU観測所に赴き、現地での観測を実施しています。長年にわたり蓄積されたデータベースの利用推進のために、機械学習を利用したデータ処理システムの開発も近年開始しています。

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電離圏大気の研究

高度100km以上の地球大気上部は、太陽紫外線の影響により一部が電離した状態(プラズマ)で存在しており、電離圏と呼ばれています。電離圏プラズマ中を伝搬する電波は、反射、屈折、伝搬遅延といった影響を受け、GPS等の測位衛星の誤差の要因となることから、電離圏の状況を正確に把握し、予測することが航空機・船舶等の運用においても重要視されています。一方、大気中には、大気重力波と呼ばれる波動現象が存在します。大気重力波は、大気の下層から伝搬し、電離圏中の電子の振る舞いに大きな影響を与えます。当研究室では、レーダー、ロケット、人工衛星による観測を駆使し、大気重力波と電磁気現象との関連を解明するための研究にも取り組んでいます。また、数値シミュレーションを用いた電離圏擾乱現象の複雑な構造の再現と発生予測、電波伝搬に及ぼす影響に関する研究も実施しています(下図:赤道プラズマバブルによる電子密度変動の再現結果)。

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赤道大気の研究

赤道直下に存在するインドネシアは高い海水面温度に囲まれた多数の島が存在し、また太陽放射が強い地域です。そのため対流活動が活発で、この対流活動に伴う大気中のエネルギー輸送は地球大気変動の駆動源となっています。

当研究室では、インドネシアのスマトラ島に設置されたVHF帯の大型レーダー(赤道大気レーダー:写真)を開発し、インドネシア航空宇宙庁の協力のもと熱帯大気の連続観測を実施しています。大型レーダーならではの高い観測能力を活用して、対流圏中の積雲対流に伴う大気中の物質やエネルギーの輸送・電離圏におけるプラズマバブルと呼ばれる電磁気現象などの大気現象の解明に取り組んでいます。近年は、タイ、ベトナム、インド、中国等の周辺諸国とも連携し、東南アジア域の大気観測を包括的に実施することを目指しています。

研究の実施は、インドネシアを中心とした諸外国の研究者との共同で実施するほか、日本人研究者が現地に実際に赴き、フィールド観測を実施しています。各国での観測は教員・研究者のみならず、多数の学生が現地での観測に参加し、多様な国際経験を積んでいます。

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