開会ご挨拶

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京都大学総長 湊 長博

 本日はご多用の中、令和3年5月23日にご逝去された 長尾 真 先生のお別れの会にご来臨賜り、誠にありがとうございます。開式にあたり、京都大学を代表して、一言ご挨拶を申し上げます。

 長尾 真 先生は、昭和11年 三重県でお生まれになり、昭和34年に京都大学工学部をご卒業の後、昭和36年に京都大学大学院工学研究科修士課程を修了されました。その後、京都大学工学部助手、講師、助教授を経て、昭和48年に教授にご就任、以降、大型計算機センター長、附属図書館長、工学研究科長・工学部長等の要職を歴任され、平成9年12月から6年に亘り、第23代京都大学総長として本学のためにご尽力くださいました。

 総長在任中には、教育・研究組織整備の一環として、大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、情報学研究科、生命科学研究科、さらに地球環境学堂・学舎といった独立研究科や再生医科学研究所(現在の医生物学研究所)を設置するなど、先進的かつ意欲的に教育・研究の基盤形成を推進されました。

さらにキャンパス整備にあたっては、京都市西京区桂の地に、最先端の研究を行い、景観や環境にも配慮した地域社会と協調する開かれた新キャンパスを作り上げる傍ら、国立大学協会会長も務め、全国の国立大学のまとめ役として平成16年からの国立大学法人化にも献身的に取り組まれました。

 学術研究に関しては、学部時代には電磁気学、中でも海流·潮流の電磁現象に関する数値計算を研究テーマとされ、以降、デジタルコンピューターの開発に始まり、知能情報学や機械翻訳、そして総合的情報処理システムである電子図書館の提唱に至るまで、多大な研究成果を上げられ、情報学という専門分野の進展に貢献されました。その顕著な業績は、数々の学術賞受賞に留まらず、平成9年に紫綬褒章を受章、平成20年に文化功労者に選ばれ、平成30年には文化勲章を授与されておられます。

 先生は、豊かな経験と高い学識をお持ちであると同時に、スポーツや書籍、音楽をこよなく愛し、また書道を趣味とされ、哲学・宗教にも精通しておられました。幅広い知識に裏打ちされた強い信念とやさしさで、昭和・平成・令和の3つの時代を歩まれ、その著書で記されているとおり、まさに「自己を律し、全人的に生きたい」という魂を実践されたのであろうと思います。

 本日は、長尾 真 先生がわたしたちに残してくださった、さまざまな教えとかけがえのない財産に心から感謝し、思いを致すとともに、その足跡を辿りながら、在りし日の思い出を皆様と語らい、心からご冥福をお祈りしたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。