量子電磁工学分野

原子の量子状態を用いた超精密計測と人工原子系「メタマテリアル」に関する研究

原子の量子現象を利用すると想像もつかない高精度な測定が可能になります. その応用の1つ, 原子と電磁波との相互作用を動作原理とする原子時計では, GPSなど実生活と関係する分野にもその精度の高さが活用されています. 我々は高精度化をさらに追求し, 宇宙の寿命ほどの時間がたってようやく1秒狂うようなレベルの原子時計をレーザー光を使って実現しようと研究しています. さらに, その安定なレーザー周波数を基準として, その精度を保った別の波長のレーザー光やマイクロ波を自在に発生させる, 光周波数シンセサイザの研究を行っています.

また,本物の原子ではなく人工的に作られた構造体によって電磁波を制御することができます. このような, 人工的な構造体の集合をメタマテリアルと呼びます. 媒質の境界で電磁波が「く」の字に屈折する負屈折などは, メタマテリアルによって始めて実現されました. また, メタマテリアルは構造の大きさを変えるだけですべての波長で動作させることができます. 本研究室では、メタマテリアルを用いた新現象の探求と、マイクロ波領域あるいはテラヘルツ領域での実証実験を行っています.

以上のように, 我々の研究室では時間標準やメタマテリアルの研究を, 実験と理論的考察(計算機シミュレーションを含む)の両方からアプローチしています.

教員

杉山 和彦 ( Kazuhiko SUGIYAMA )

杉山 和彦准教授(工学研究科 電子工学専攻)

研究テーマ

量子エレクトロニクス,量子計測工学
レーザー光による極めて正確で安定な原子時計, および, 量子コンピュータを, 単一イオンや配列イオンを使って実現する研究を行っています. また, 光からマイクロ波領域までの周波数を超短パルスレーザを使って合成する光周波数シンセサイザの研究など, 量子現象を応用した超精密計測技術の研究を行っています.

担当講義

  • 電子回路
  • 量子計測工学(大学院)

連絡先

京都大学桂キャンパスA1棟124号室
TEL: 075-383-2322
FAX: 075-383-2324
E-mail: sugiyama kuee.kyoto-u.ac.jp

中西 俊博 ( Toshihiro NAKANISHI )

中西 俊博講師(工学研究科 電子工学専攻)

研究テーマ

メタマテリアル, 量子エレクトロニクス,非線形光学
メタマテリアルを用いた電磁波の保存や再生や, メタ表面を用いたテラヘルツ波の制御を研究しています.

連絡先

京都大学桂キャンパスA1棟126号室
TEL: 075-383-2323
FAX: 075-383-2324

研究テーマ・開発紹介

単一イオン, 配列イオンのトラップ

超高真空中の狭い空間に電場で閉じこめた一個のイオンを, レーザ冷却で静止させる.このような単一イオンは周りから孤立していてイオン本来の性質を示すので,イオンが吸収する光の周波数を極めて正確に決定することができる. この周波数を基準としてレーザの発振周波数を安定化させることにより, 超高精度の原子時計を光領域で実現させる研究を行っている. また,冷却されて配列した状態で静止した少数個のイオンを利用して量子コンピュータの実現を目指す研究も開始している.

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光周波数シンセサイザ

モードロックレーザーと呼ばれる超短パルスレーザーは, 非常に正確な時間間隔で光パルス列を放射する. これを周波数軸にフーリエ変換した姿は,一定の周波数間隔で発振している多数の連続波レーザの集合体となっている. その形状からこれは光周波数コム(櫛)と呼ばれ, 光周波数の物差しの目盛りとして利用することができる. さらに, この光パルスをフォトニック結晶ファイバーという特殊な光ファイバーに通すと, 光周波数コムのスペクトル幅は1オクターブ以上に広がる. スペクトル幅1オクターブ以上の光周波数コムでは, コムの各モードの周波数 (光領域) とコムのモード間隔 (マイクロ波領域) を関連付けることができることから, 光とマイクロ波の周波数を直接比較することができる. ここでは, GPS時計を基準にした光周波数計測システム, 周波数の安定な任意の波長のレーザーを出力する光周波数シンセサイザ, 及び, レーザー周波数を正確に分周して実現するメーザーよりも安定で正確なマイクロ波源の研究を行っている. 半導体レーザーを利用した小型の原子時計 (レーザー原子時計) の実現など, 応用面も重視して取り組む.

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メタマテリアル

自然界に存在するような物質の磁場に対する応答は非常に小さく, マイクロ波や光に対しては比透磁率はほとんど1 と見なせる. しかし, メタ物質と呼ばれる人工的に作られた構造物によって, 磁場に対する応答を大きく変化させることができる. 媒質の境界で電磁波が「く」の字に屈折する負屈折などは, メタ物質によって実現される現象である.本研究室では, メタマテリアルを用いた電磁波の保存・再生や,2次元的なメタマテリアルであるメタ表面を用いたスペクトル及び偏光操作について研究を行っている. 研究は, 電磁界シミュレーションを用いた研究と, マイクロ波及びテラヘルツ波を対象とした実験検証両方行っている.

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