バイオサイバネティクス分野(旧医用工学分野)

生体の恒常性(ホメオダイナミクス)・動的適応性(アロスタシス)とその破綻機序の解明と医学応用

我々の主要な課題は、医工情報学領域の学際研究を通じて、生体機能発現の動的メカニズムの理解を深化させること、ならびに、病によって生体機能が変容する疾患メカニズムの解明を目指す医学研究に貢献する情報学・システム科学基盤を構築することです。特に、生体の状態を“最適な状態”に保つ性質であるホメオスタシス(生体恒常性)の概念を現代的視点から捉え直したホメオダイナミクスやアロスタシス(動的適応性)とその背後にある生体制御メカニズムを、具体的な生体機能を研究対象として明らかにすること、ならびに、ホメオダイナミクスの不安定化に起因する疾患(動的疾患)のメカニズムを明らかにし、生体制御のメカニズムに基づく疾患の定量的診断支援を可能にする医用システムの基盤開発を目的とした研究を行っています。

教員

野村 泰伸 ( Taishin NOMURA )

教授(情報学研究科 システム科学専攻)

研究テーマ
運動制御、計算論的神経科学、生体の非線形ダイナミクス、神経疾患による運動障害機序

連絡先
吉田キャンパス 総合研究12号館 423号室
E-mail: taishin[at]i.kyoto-u.ac.jp

今井 宏彦 ( Hirohiko IMAI )

助教(情報学研究科 システム科学専攻)

研究テーマ
磁気共鳴イメージング,核磁気共鳴

連絡先
吉田キャンパス 総合研究12号館 422号室
E-mail: imai[at]sys.i.kyoto-u.ac.jp

研究テーマ

モデルベースド研究とデータ駆動型研究の統合による生体機能・脳機能へのアプローチ

生体機能が表出したメゾスコピックあるいはマクロスコピックスケールの生体時系列信号、具体的には、身体運動データや脳活動データ等を観測・取得し、それらの生体時系列データが示す複雑な変動、すなわち生体ゆらぎや生体リズムを数値指標化します。これは、我々の研究におけるデータ駆動型アプローチであり、生体ゆらぎの特性に基づく健常者と患者の分類や、患者の疾患重症度の数値化を可能にする機械学習装置や動的バイオマーカーの開発を推進しています。一方,観測された生体ゆらぎを生成する動的制御システムを同定し、その非線形動態を数理的に解析するモデルベースドアプローチは、我々の研究の中核課題です。観測データに同化された動的モデルには、生体ゆらぎを伴う健常機能の発現機序を説明する能力と、生体ゆらぎの変容に表出する疾患の発症、進行や医療的介入の効果を予測する能力があります。このとき、動的モデルの多くは、ホメオダイナミクスやアロスタシスによって実現される“最適な状態”を実現する強化学習系やモデル予測制御系として同定されますが、興味深いことに、外因性および内因性ノイズや、生体フィードバック制御で不可避な遅れ時間等、生体システム動態の不安定化を誘引する要素に溢れた環境の中で獲得される機能発現方策や制御様式は、巧みな仕組みによって、しばしば、柔軟性と頑健性を合わせ持つことがあります。人工的な工学機器に用いられるものとは本質的に異なる新しい制御様式を生体に学ぶことも、我々の研究の目的の一つです。モデルベースド研究とデータ駆動型研究を統合したアプローチの開発は、21世紀の情報学・システム科学の最重要課題の1つであり、我々も、そうした統合的アプローチを見据えながら、医工情報学領域における種々の課題解決に貢献することを目指しています。

パーキンソン病による運動失調の脳内機序解明

我々の代表的な研究対象は、パーキンソン病に起因する運動失調です。パーキンソン病に起因した立位姿勢を含む四肢体幹や眼球姿勢の不安定化、あるいは歩行運動の不安定化は、ホメオダイナミクスの不安定化によって発症する動的疾患として捉えられることが分かってきています。パーキンソン病は強化学習の座である大脳基底核の疾患ですが、身体姿勢維持や歩行機能の実現と失調に大脳基底核における情報処理が重要な役割を果たしています。我々は、パーキンソン病患者における運動失調の脳内メカニズムの解明を目指し、運動計測、脳波・筋電図計測と、これらの時系列データに基づく生体運動の脳内制御系の同定に挑戦しています。

磁気共鳴イメージング (MRI)

磁気共鳴画像(MRI)による心拍動のイメージングと運動解析、生体組織の弾性率計測に関する研究を行っています。また、実験用MRI装置を用いて模型を対象とした運動や弾性に関する物理実験やマウスを対象とした動物実験、生体試料を対象とした病変組織特性の計測実験なども行っています。

MR imaging

医用人工知能(Machine Intelligence in Medicine)

生体臓器の三次元形状や力学特性、診断や手術に関する医学知識のモデリングと定式化に関する研究を行っています。診断や治療計画の自動化、外科手術のナビゲーションを実現する次世代の医用システムの創出を目指して、その基盤となる医用人工知能、画像処理や人工現実感(バーチャルリアリティ)などの手法を探求しています。

Machine intelligence in medicine

触力覚情報処理(Haptics)

接触力計測装置や三次元位置・姿勢計測装置、フォースフィードバック装置等を活用したVRシステムの開発や心理物理実験を通して、触力覚情報の伝達・共有法の確立や触知のメカニズムの解明を目指しています。

Haptics