エネルギー光物性分野(エネ研:ナノ光科学分野)

ナノサイエンスに立脚した光科学の学理追求とそのエネルギー応用

近年、持続的に発展可能な社会の実現に向けて、社会受容性の高いエネルギー生成・利用・変換に資する研究の重要性がますます増している。本研究室では、「ナノサイエンスに立脚した光科学の学理追求とそのエネルギー応用」を目標として、物性物理・物質科学・量子光学・デバイス工学を基盤として独自の研究を進めています。

特に、将来のフォトニクスや光エネルギー応用に向けて、従来の研究の延長線上にはない「極限ナノ物質」、「量子光物性」、「デバイス機能」などの、新しい要素を取り入れる事が不可避となっている。我々は、わずか原子数層の薄さのカーボンナノチューブ・グラフェンや原子層二次元半導体などの極限ナノ物質を対象に、そこで発現する特異な量子光学現象とその背景にある深淵な物理の理解を通して、高効率な太陽電池やバレースピンフォトニクスなど、新しい光・エネルギー科学の地平を目指して研究を展開しています。具体的な研究テーマは、以下の通り。

(1) 極限ナノ物質(カーボンナノチューブ・原子層二次元半導体)の光科学

(2) 原子層二次元半導体の光物性物理とバレースピンフォトニクスへの応用

(3) エネルギーデバイス・量子光デバイス応用

教員

松田 一成k_matsuda.png

教授(エネルギー理工学研究所・エネルギー機能変換部門)

研究テーマ

極限ナノ物質における光科学, エネルギーデバイス応用

連絡先

宇治キャンパス 本館 M-550E
E-mail: matsuda (at) iae.kyoto-u.ac.jp

篠北 啓介k_shinokita.jpg

助教(エネルギー理工学研究所・附属エネルギー複合機構研究センター)

研究テーマ

二次元物質の超高速現象、非線形光学応答

連絡先

宇治キャンパス 本館 M-545E
E-mail: shinokita.keisuke.4r (at) kyoto-u.ac.jp

 

[1] 極限ナノ物質(カーボンナノチューブ・原子層二次元半導体)の光科学:

半導体中に光で生成された状態が関与した光学的性質(光物性)に関する研究は、固体物理学において中心的課題の一つであり、なおかつ、その発展が新しい半導体光デバイスの礎となっている。グラフェンの発見を契機として、わずか原子一層(数層)からなる新たな低次元物質が実現し、固体物理学・光科学・フォトニクスの分野で大きなパラダイムシフトを迎えつつある。これまでに我々は、低次元物質の中でナノカーボン(カーボンナノチューブ)・原子層二次元半導体(単層遷移金属ダイカルコゲナイド)などでの光科学を通じて、数多くの特異な量子光学現象の観測とその背景にある物理を明らかにしており、それを新たな光学(フォトニクス)応用へと繋げる道筋を示す事を目指している。

 

図2.png

 

 

[2] 原子層二次元半導体の光物性物理とバレースピンフォトニクスへの応用:

原子層半導体は“beyond graphene(グラフェンを超える物質)と呼ばれ、情報伝送・演算などの機能を有する高速・省エネルギーな量子光デバイス材料の候補として期待されている。例えば、原子数層の遷移金属ダイカルコゲナイドでは、クラマース縮重の破れに起因し波数空間のK-K(バレー)に、スピンのアップとダウンの電子がそれぞれ分極する。その結果、「バレー」と「スピン」が結合した「バレースピン」という新たな量子自由度が自発的に出現し、バレースピントロニクスと呼ばれる研究展開が期待されている。その一方で、情報伝送・演算などの機能に繋げるためには多くの課題が存在する。我々は、独自のアプローチでバレースピン分極を外部制御することに成功しており、バレースピンの量子自由度の物理の理解や制御という学術的な意義に加え、バレーフォトニクスに向けて新しい指針を与える研究を進めている。

 

図1.png

 

 

[3] エネルギー・量子光デバイス応用:

持続的な社会の実現に向け、従来のエネルギー研究のアプローチとは異なる方向性で、新しい機能を有し高効率なエネルギー変換デバイスの実現が望まれている。我々はこれまでに、次世代の極限ナノ物質による太陽電池のプロトタイプとなる、カーボンナノチューブや原子層半導体を利用した高効率太陽電池デバイスなどを実現してきた。また、有機・無機ペロブスカイト太陽電池において、界面制御を含む構造デザインなどのアプローチにより、高効率、安定性、フレキシビリティなどの実証に成功している。これらと並行して、原子層半導体での電界発光や微小共振器デバイスなどの研究を進め、バレースピン制御を利用したフォトニクスデバイスの基盤技術の研究を推し進めている。

Fig3.png